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無人島に生きる十六人 –須川 邦彦 (書評・レビュー・感想)

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大嵐で船が難破し、僕らは無人島に流れついた! 明治31年、帆船・龍睡丸は太平洋上で座礁し、脱出した16人を乗せたボートは、珊瑚礁のちっちゃな島に漂着した。飲み水や火の確保、見張り櫓や海亀牧場作り、海鳥やあざらしとの交流など、助け合い、日々工夫する日本男児たちは、再び祖国の土を踏むことができるのだろうか? 名作『十五少年漂流記』に勝る、感動の冒険実話。

書評・レビュー・感想

明治32年5月に、漁業調査を目的とした日本の船である龍睡丸が、ハワイ諸島の少し上にあるパール・エンド・ハーミーズ礁で遭難し、無人島へ流れ着いた。漂流者16人の1人であり、龍睡丸の船長でもあった中川氏から直接、話を聞いた著者がその漂流と無人島生活について書き起こした物語である。(実話というのに驚いた)

以前から漂流モノには、かなり興味があったため、江戸時代のさまざまな漂流物語を集めたアンソロジー本「江戸時代のロビンソン―七つの漂流譚」や、鳥島に漂流した土佐の長平を扱った吉村昭の「漂流」、フィリピンのミンダナオ島に漂着した孫太郎を扱った安部龍太郎の「海神 ― 孫太郎漂流記」などを読んだが、これらの作品とは対照的に非常に明るく、楽しく、ワクワクするような冒険譚となっている。

同じ太平洋の無人島である鳥島に漂流した長平は、アホウドリを食べて生き延びたが、本書の16人は、そのアホウドリは食べれるがまずいということで、アオウミガメ(通称・正覚坊)を良く食べている。ウミガメは大洋上の離島において唯一利用可能な獣肉であり、太平洋の離島の多くがウミガメの食用習慣があったという。

漂流譚といえば、悲惨で苦しいサバイバルと思ってしまうが、本書は、規律を守りながらも前向きに日々を楽しんで生きる姿から悲壮感を感じなかった。挿絵のかわいさもその印象を加速させたかもしれない。明治の男が誇りをもって統制がとれた無人島生活を行ったサバイバルというより林間学校のような雰囲気の漂流譚だった。

無人島生活では、井戸をほったり、雨水を貯めたり、かがり火をつけたり、たきぎ用の流木を集めたり、釣りをしたりなど、最低限の食料を確保するために奔走し、ココロを強く保つためにリーダーが様々な役割を全員に与える様子は冒険譚でもある。

非常に簡易でひらがなを多用して書かれているので読みやすく青少年向きでもある。
あまり有名な本ではないが、これは多くの人に読んでほしい作品である。

いろいろな漂流譚を読んだので、最後はノーベル文学賞をとっているウィリアム・ゴールディングの小説「蝿の王」でも読んでみようかな。ただ、事実は小説より奇なりで、本作のようなノンフィクションの方がリアリティがあって個人的には好みだが。

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