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アホウドリの糞でできた国 –古田 靖 (書評・レビュー・感想)

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だれも働かない夢のような国がありました……税金ゼロ。学校・病院はタダ。食事はすべて外食。国民は誰も働かない……。そんな夢のような国が、本当に存在します。太平洋の赤道付近にぼんやり浮かぶ島、その名はナウル共和国。さんご礁にアホウドリが大量の糞をして、その糞が堆積してできた島です。この糞は長い年月を経て燐鉱石(肥料の原料になる)となり、国民は何もしなくても生きることができたのです。

しかし、この世界史上サイテーのなまけもの国家を襲った(ある意味しょうがない)危機! 政府が立案したまぬけな打開策の数々! などの顛末が描かれて、はや9年。その後のナウルはどうなったのか? ぼんやりしたままなのか? そこで、このたびの文庫版では「その後のナウル」を知る人々を招き、大座談会を開催。やはりというかさすがというか、アホウドリの糞でできた国だけのことはあるなあという衝撃の結末があきらかに(ただし、やわらかめ)。

書評・レビュー・感想

本書では、南太平洋にある小国・ナウル共和国がどのように社会崩壊への道(現在進行形)を進んだかがわかるようになっている。ただ、イラストがとてもかわいいので、事態の深刻さに比べるとライトなしあがりになっている。

今回のナウル共和国の話は、時代は異なるが、同じ南太平洋にある小島であるイースター島の社会崩壊の例に近く、資源の過剰開発によってみずから破滅した社会といえるかと思う。

ジャレド・ダイアモンドの「文明崩壊 (上)」にイースター島の事例が載っていた。

イースター島は、面積163.6km²の太平洋上に浮かぶ火山島である。大きさは八丈島の2.5倍ほど。1722年にオランダ海軍が、この島を発見し、発見した日がイースター(復活祭)だったため、「イースター島」と名前が付いたと言われている。現在は、チリ領で、人口は4,000人ほどである。

調査によると、最盛期には数万人がこの島に暮らしており、亜熱帯性雨林の島だったが、伐採の影響で森林が破壊されつくし、不毛の荒れ地となっていったようだ。乱獲やネズミの捕食により陸鳥が絶滅し、甲殻類もその種類を激減させている。1722年にオランダ海軍が、この島を発見した時には、3メートルを超える樹木が1本もなかった。イースター島は、森林破壊により森林が丸ごと消え、全種類の樹木が絶滅したため、原料の欠乏、野生食料の欠乏、作物生産量の減少という事態に陥った。木材が無くなったことにより、航海用のカヌーが作れなくなり、完全に島は孤立する。

森林破壊の影響はすさまじいものであり、森林が無くなったことにより風雨のよる土壌侵食が起こり、土地がやせ細り、作物生産高の著しい減少となり、飢餓、人口激減、人肉食へと至っていく。イースター島は、孤立状態であったがゆえに、資源の過剰開発によってみずから破滅した社会として非常に明確な事例となっている。

ナウル共和国にはリン鉱石という資源があったために、その資源開発によって一時的に莫大な富を得て、国民全員が豊かとなり、黄金時代を満喫するが、資源がなくなった後に残ったのは、飽食によって肥満となった、働いて賃金を稼ぐ習慣がない国民と、長年の採掘によって穴だらけになってしまった島だけだった。(失業率90%、肥満率80%以上、糖尿病率30%以上)

その後、リン鉱石による収入がなくなったナウル共和国が行ったのは、国籍の販売やブラックマネーの温床となるタックス・ヘイヴン銀行、アフガニスタンやイラクからの難民の収容代行サービスなどであったが、どれも非難を受けて、継続できなかった。そして、現在は、国連での1票や経済水域の権利、捕鯨問題、難民問題などを使って、経済大国から援助を受けることでなんとか国家運営をしているという状況である。

ジャレド・ダイアモンドの「文明崩壊 (下)」には、同じ南太平洋にあるティコピア島が、社会崩壊の危機を免れた例として紹介されていた。

ティコピア島は、ニューギニアの東、ニュージーランドの北に位置する小さな火山島である。面積は5km²未満で、ピトケアン島に近い大きさの島で人口は約 1,200人。

この島も社会崩壊の危機を免れ、3千年間、社会を維持している。この島では総面積の大部分を果樹園が占め、すべてをしっかりと管理しており、しげるすべての植物が食用となっている。そして乱獲を防ぐために魚を取るのに首長の許可を必要とし、持続可能な食糧供給を達成するために島全体がコントロールされている。過去に焼畑式農業から果樹園へ、養豚業から漁業へ転換して環境を守っている。

年間2個以上のサイクロンが襲来する島であり、それにより作物が全滅する危険があるため、非常食の準備を行っている。そして島が維持できる人口以上に増加しないような人口抑制策が採られている。そのために毎年、首長が儀式を行い、人口ゼロ成長の理念を説いている。

ナウル共和国もティコピア島のように、持続可能な食糧供給を達成するために島全体をコントロールしたり、非常食の準備をしたり、人口抑制策をとったりなどの地に足のついた政策を実行する必要があると思うが、かつて自給自足できる島だったナウルは、この100年で土地は荒れ、働く習慣がなくなり、現在ある現金でなんとか食料を輸入しているが、それができなくなったらオーストラリアに吸収されて国家がなくなってしまうしかないのではないかと思う。

ナウル共和国以外にも、天然資源の輸出に依存しすぎて、国内の生産活動が空洞化している国があるが、そういった国で天然資源がなくなった将来は、ナウル共和国のようになってしまうのかもしれない。

本書の最後では、ナウル共和国の今後について少し楽観的というか無責任というかそんな印象の内容で終わっていたが、ツケが回ってきた国の最後がどのようになるのかに、非常に興味がある。

Wikipedia – ナウル
【国民総ニート】失業率90%のヤバすぎる楽園、ナウル共和国
4travel.jp – ナウルに行ってみた


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