仕事の醍醐味を味わいたかったら、社長になりなさい!
『ザ・タワー』『シーマン』『大玉』などのゲーム製作者として知られるクリエーター・斎藤由多加氏が、20年に亘る社長業を通じて体得した「社長の仕事」の全貌を、時にユーモラスに、時に愚直に綴る一冊。会社組織におけるトップ・社長は、その言葉自体は誰でも知っているが、「社長はどんな仕事をしているのか」「どんな苦しみを味わっているのか」など、具体的なことは意外に知られていない。
本書では、リクルートを退職し独立して以来、20年の歳月を社長として過ごしてきた斎藤由多加氏が「独立する際に最も必要なものとは何か?」「独立するとどんな出来事が待っているのか?」「株式公開していい企業、いけない企業とは?」「社長が味わう孤独とは?」「創業者にはどんな権利があるのか?」「契約書締結の際に気をつけることとは?」「新ビジネスにおける着眼点とは?」「マーケティングデータに潜む魔物とは」などのテーマに関して、実体験を交えながら綴る。ソフトバンク株式会社の代表取締役社長の孫正義さん絶賛のビジネスエッセイ!
書評・レビュー・感想
「ザ・タワー」や「シーマン」でクリエーターとして有名な著者が、クリエーターではなく、経営者として書いたエッセイである。非常に共感できるポイントが多かった。等身大かつ日常的な内容でとても好感を持った。
本書に書かれているのは、ゲーム開発をメインにした中小企業でよく起こりそうな現実的な問題であるが、これまた非常によくあるパターンで、同じような経験をした中小企業の経営者は多いだろう。私も同じだ笑
志だけではうまくいかないという本音が随所に散りばめられていて小気味いい。
少し愚痴っぽくなるが、本書に書かれていた「目に見えないセーフティネットのコスト」については、いままでうまく言葉にできなかったことを言葉にしてもらった感じでとてもうれしかった。最近はシェアオフィスだ、リモートワークだ、副業だなんてことが言われているが、目に見えない、経験者にしかわからないことを織り込んだサービスでないと最終的には受け入れられず、時代に流されるだけになるだろうと思う。
クライアントが求めているモノは納品物だけじゃない。もう1つ、とても大事なことがあるのです。客側の言葉で言うなら、それは「納品されるまでの安心感」というやつ。これをわかっていない人が意外に多いのです。
見積書には書かれることはないけれども、通常の企業が出す見積り金額には、「前金で払わずとも、ちゃんと納品を確認してから代金を払えばいいことへの納得感」とか、「担当者が不在でも他の人が電話を取ってくれる便利感」とか、「担当者が事故に遭ってもバックアップ人材が控えていることへの安心感」とか、「その会社を訪問した時に社内会議室で打ち合わせができることへの安定感」とかいった、小さなサービスがすべて含まれているわけで、一見ばかばかしいと思うだろうけど、一般的にはこういうことができる体制をサービスのインフラと呼ぶのだと思う。
「正社員を採用する」というリスクは、毎月の固定費といいう名目で資金繰りに重くのしかかってくるもの。必要な時にだけ助けに来てくれる優秀なプロはいないものか、とも思うわけだけれど、そんな都合のいい人などいないものです。セーフティネットという言葉を使ったけれど、いつもきっちりいてくれる「社員という人材」こそが有事に誰よりも頼りになる。逆に言うと「決められた時間に会社に出社してくれない人」というのは、その価値がかなり薄れることになるわけ。「いつもいる」とか「決まった時間には必ずいる」というのが、自社のみならず、クライアントにとっても、費用換算できない大きな価値です。そういう組織を備えるためのコストをきっぱりと切り捨てて、「でも、うちのスタッフは優秀ですから」というのは、未熟な営業スタイルと思われがち。だけど案外客の立場にならないとわからないことでもある。
著者は、分類する力と言葉にする力がとてもある人だと思う。
能力がある人は分類する力がある。なぜなら、細かく分類できればできるほど、それぞれの特性や違いが理解でき、その使い方などの工夫を考える余地ができるからである。分類できれば思考が働き、分類できなければ何も変わらない。それができるのが著者だと感じた。
等身大な内容だが、実体験であるがゆえによく読める。