オランダの29歳の新星ブレグマンが、「デ・コレスポンデント」という広告を一切とらない先鋭的なウェブメディアで描いた新しい時代への処方箋は、大きな共感を呼び、全世界に広がりつつある。
最大の問題は、人間がAIとロボットとの競争に負けつつあること。その結果「中流」は崩壊し、貧富の差は有史上、もっとも広がる。それに対する処方箋は、人々にただでお金を配ること、週の労働時間を15時間にすること、そして国境線を開放することである。それこそが、機械への『隷属なき道』となる。
書評・レビュー・感想
ベーシックインカム本である。
タイトルは、フリードヒリ・ハイエクの「隷属への道」のオマージュのようである。
トマス・モアが「ユートピア」で夢想したベーシックインカム。1930年ケインズは2030年には人々の労働時間は週15時間になると予言していた。そこから本書ははじまる。
日本でも以前に比べるとベーシックインカムはある程度、真面目に語られるようになってきたと思う。それはやはり、AIやロボットの進化が現実味を帯びてきたからだろう。実際、将来的には部分的にしろ、どこかの国でベーシックインカムが始めると予想している。日本も可能性がある。
ただ、ベーシックインカムには既存の社会福祉を撤廃することとセットである。多くの人がそれを理解し、AIやロボットとの競争に勝てない分野でしか働けない人に対して、迷惑だから働くのをやめてもらうためのお金としてのベーシックインカムが進めば、広がっていくように思う。
オスカー・ワイルドは、「仕事とは他になすべきことを持たない人々の逃げ場である」と言ったというが、将来は本当にそうなるのかもしれない。
本書でもベーシックインカム導入のための具体的なロードマップは何も語られていない。これはその国ごとの制度や文化など個別具体的な障害に対してカスタマイズが必要なので、一概に言えないのだろうと思う。ただ将来の理想論、未来論としてはすばらしいと思う。
現実はもっとシビアな感じはするが、やってみなければわからない。これまで以上の大きな格差社会への入口かもしれないし、資本主義の終わりかもしれない。
著者は、世界を救う方法として以下の3つを提言している。
1.ベーシックインカム
2.一日三時間労働
3.国境線の開放
この中で「3」が最も遠い未来のような気がしている。