Quantcast
Channel: らいらいブログ
Viewing all articles
Browse latest Browse all 655

橘玲の中国私論 –橘 玲 (書評・レビュー・感想)

$
0
0

作家・橘玲が世界を歩きながら、経済・金融・歴史などについて独自の感性と考察によりさまざまな事象に新解釈を加えていく新シリーズがスタート。今回は、日本の隣の国、中国がテーマ。尖閣問題など緊迫する日中関係。国家の成り立ち、社会構造が全く違うにもかかわらず、なまじ顔かたちが似ているせいで理解しがたい行動に不満が大きくなる。交流した現地の中国人、歴史、社会システムなどから、巨大な隣人の真実を大胆に解き明かす。経済・金融、人生論、社会批評まで幅広い活躍を続ける橘玲氏による独自の中国社会評論。

—中国各地に点在する世界史上稀に見る、鬼城ゴーストタウンの観光ガイド付き—-

●「なぜ中国人はひとを信頼しないのか?」「なぜ反日なのか?」「なぜ中国は鬼城ゴーストタウンだらけなのか?」

中国共産党、中国人の精神構造、シャドーバンキング、史上稀に見る不動産バブルの実態、官僚腐敗、反日、日本の戦争責任など扱うテーマは多種多様。

●巻頭特集 中国鬼城観光案内

内モンゴル自治区オルドス、天津・浜海新区、海南島・三亜、河南省・鄭州、モンゴル自治区フフホト、安徽省・合肥、内モンゴル自治区・清水河、河南省・鶴橋、浙江省・杭州、上海・松江区

●はじめに 中国を旅するということ

●PART1 中国人という体験
1 ひとが多すぎる社会
2 幇とグワンシ
3 中国共産党という秘密結社

●PART2 現代の錬金術
4 経済成長を生んだゴールドラッシュ
5 鬼城と裏マネー
6 腐敗する「腐敗に厳しい社会」

●PART3 反日と戦争責任
7 中国のナショナリズム
8 謝罪と許し
9 日本と中国の「歴史問題」

●PART4 民主化したいけどできない中国
10 理想と愚民主義
11 北京コンセンサス
12 中国はどこに向かうのか

書評・レビュー・感想

本書は、橘玲氏の中国旅行記であるが、なかなか示唆深いものだった。

「中国の社会には「信用」という資源が枯渇しているが、その理由は、人間があまりにも多いからである」から始まるが、読み進めていけばいくほど、その通りなんだろうと思った。

広い国土と多すぎる人口を背景に、中国では郷党と宗族の人的ネットワークに頼って寄る辺ない社会を生き抜いていくライフスタイルが確立した。この人的ネットワークが、中国社会を理解するキーワード「関係(グワンシ)」だ。

中国を理解する上で大切なキーワードは「関係(グワンシ)」だと思った。「関係(グワンシ)」については、幇(ほう)を結んだ関係=朋友の例が書かれており、とても理解の参考になった。誓いは言葉ではなく、行動で示さなければならないという点で、任侠に近い印象を受けた。

もう1つ、なるほどなあと思ったのが以下の「関係(グワンシ)」に関する説明だ。近代の法治国家のルールが中国では機能せず、法よりも人間関係が優先する人治社会となっていることを示す例だと思う。

日本でも、会社のコネで手に入れたチケットを友人に回す、などという行為は一般に行われている。しかし機密情報の漏洩など、重大なルール違反にまで手を染めるひとはほとんどいない。だが、中国では、「グワンシ」のあるひとから依頼されれば会社のルールはあっさり無視されてしまう。これが日本企業が、「中国人は勝手に情報を持ち出す」と不満を募らせる理由だ。なぜこのようなことが起きるかといいうと、日本と中国では「安心」の構造が異なるからだ。日本の場合、安心は組織(共同体)によって提供されるから、村八分にされると生きていけない。日本の社会資本は会社に依存しており、不祥事などで会社をクビになれば誰も相手にしてくれなくなる。だからこそ、会社(組織)のルールを私的な関係よりも優先しなければならない。それに対して中国では、安心は自己人の「グワンシ」によってもたらされる。このような社会では、たとえ会社をクビになったとしても「グワンシ」から新しい仕事が紹介されるから困ることはない。だが自己人(朋友)の依頼を断れば、「グワンシ」は切れてすべての社会資本を失い、生きていくことができなくなってしまうのだ。

中国の金融制度についても理解が進んだ。外貨から人民元への両替は比較的自由に行えるが、人民元を外貨に両替することは原則禁止されている。これは、アジア通貨危機の教訓らしいが、この政策には穴もある。Union Payを利用して海外でカード支払いをしたり、ATMから現金(外貨)を出したりできるからである。香港と深せんの間では税関がフリーパスなことを利用して中国国内から大量の人民元が香港へ持ち出され、不動産に投資され、地価の異常な高騰が起こっているというような具合である。まさに「上に政策あれば、下に対策あり」である。

似ているようで大きく違うのが、日本と中国である。
中国を理解する上でとても参考になると思った。


Viewing all articles
Browse latest Browse all 655

Trending Articles